異物混入からのV字回復──ペヤング、信頼を取り戻した逆転劇

まるか食品

深夜のコンビニ。
棚にずらりと並ぶ即席麺の中に、四角い器が静かに光を放つ──ペヤング。
だが2014年冬、その姿は一瞬にして消え去った。
SNSを震源地に広がった“異物混入”の炎上。
まるか食品は、半世紀の信頼を失う瀬戸際に立たされた。

その逆境を迎える前、ペヤングはなぜ独自の道を歩んでいたのか?

即席麺業界の常識は「丸い容器」と「ラーメン中心の大量生産」。
だが1975年、群馬の小さなメーカーが常識を裏切った。
──四角い容器に盛られた「ソース焼きそば」。
名は「ペヤング」、意味は「ペア+ヤング」。
恋人同士で分け合う新しい食文化の提案だった。

異端の挑戦は、やがて東日本の食卓を席巻。
ブランド認知は、シェア以上の存在感を放ち始める。

だが、長年築いた信頼を揺るがす危機が突然訪れる

2014年12月。
SNSに流れた一枚の写真が、企業を止めた。
〈消費者の声〉「ペヤングから異物が…」
拡散のスピードは、防ぎようがなかった。

稼働をやめた工場は、がらんと静まり返った。
ベルトコンベアは止まり、積まれた資材だけが残る。

工場はすべて止まり、売上はゼロ。
商品は棚から消え、半年もの間、収益は一切ない。
保険の適用もなく、損失はすべて自社負担。
社員の不安、融資元の懸念、取引先の失望が重なり、会社の存続すら危ぶまれる状況だった。

この谷底から、どう立ち上がることができたのか?

暗闇の中で、経営は選んだ。
部分回収ではなく、全商品販売自粛と全工場停止。
そして、地方の中小企業にとっては破格とも言える──10億円超の再発防止投資である。

壁という壁を塗り直し、工場全体を“再生”した。
ラインには無数の監視カメラを設置。
麺が流れる瞬間、具材が落ちる瞬間、ソースが注がれる瞬間──すべてを記録し、1年間保存する仕組みをつくり上げた。
容器はアルミシール式に改め、包装前のすべての商品を撮影。
一個一個に“顔写真”を残すかのように、個体識別が可能になった。

国際規格「FSSC22000」の取得は、その徹底を裏づける証明書にすぎない。
本質は、見えない不安を、すべて“見える”記録に変えたことだ。

〈経営者の声〉
「信頼を守るために、やれることはすべてやる」

この徹底こそが、復活への第一歩であり、業界の基準を変える一手となった。

再起を告げたのは、常識を裏切る新商品の数々だった

再始動の狼煙は、炎のような新商品だった。
「激辛」「超超超大盛」。
常識を挑発するカップ焼きそばは、SNSとYouTubeで爆発的に広がった。

〈社会の声〉
「ペヤングがまた話題をつくった」

“映える”時代に合致した商品は、笑いと驚きを伴いながら若者の心をつかんだ。
炎上から誕生した逆手の戦略。
結果、売上は事件前から倍増し、150億円規模へと跳ね上がる。

ペヤングの歩みが私たちに投げかける問いとは?

1929年の創業から続く“異端の道”。
異物混入という最大の試練は、誠実さと大胆さで乗り越えられた。
そしていま、ペヤングは再び日本の食卓で輝いている。

学びの一文:「危機は、理念とスピードを試すリトマス試験紙である」。
あなたの組織にも、“ゼロにしてでも守るべき信頼”はあるだろうか?