「10人に1人が欲しいものを作る」──常識を覆す文具メーカー、キングジム

キングジム

市場縮小が止まらない文具業界。
多くのメーカーが大量生産と卸頼みでしのぐ中、独自の哲学で道を切り開いてきた会社がある。

ファイル文化を根付かせ、「テプラ」を生み出し、さらに家具や家電にまで領域を広げた──キングジムだ。

その独創の源泉とは?

1927年、特許人名簿の発明から始まったキングジム。
戦後のオフィス需要を背景に、ファイル事業を拡大。

そして1980年代、ラベルライター「テプラ」が誕生する。
〈社員の声〉
「“ラベルを貼る文化”をつくったのは、うちなんです」

市場調査ではなく役員の直感。
10人に1人が賛成すれば商品化。
多数決ではなく「少数決」で生まれる商品が、オフィスの常識を変えていった。

文具を超えた多角化戦略

2000年代、キングジムは積極的にM&Aを仕掛ける。

文具からキッチン家電、造花、インターネット家具まで。
2024年には「ぼん家具」を買収し、ECに本格進出。

〈経営者の視点〉
「縮小市場に留まるのはリスク。ならば生活すべてに踏み出そう」

文具専門に徹する競合とは真逆。
ユニクロがSPAで市場を拡大したように、キングジムはライフスタイル全体を射程に入れている。

その先にある顧客戦略とは?

キングジムは卸任せにしない。

自社ECとSNSを連動させ、コア顧客と直接つながる。
「SNSで見た新商品を、翌日ポチる」──そんな購買体験を仕組み化。

2024年以降、直販強化で売上は堅調に伸びた。
〈若手社員の声〉
「お客さんの反応がすぐ返ってくる。次の商品に活かせるんです」

業界がBtoB中心の中、BtoCでブランドを磨く逆張り戦略。

環境配慮も武器に

「テプラ」のカートリッジはリサイクルされ、CO2排出を抑制。

中央集権的に在庫を管理し、在庫回転率は業界平均を超える。

〈社会の視点〉
「小さな文具メーカーが、環境の主役になるとは」

SDGs対応は義務ではなく、むしろ競争優位の源泉になっている。

この挑戦が抱えるリスクとは?

だが、挑戦には影もある。

ペーパーレス化と円安。
2024年には営業赤字に転落した。
M&Aに頼る多角化は、統合失敗リスクも孕む。

〈専門家の声〉
「独創は強みだが、拡大は時に脆さになる」

──独創とリスク、その狭間で揺れるのが今のキングジムだ。

物語の学びをまとめよう

キングジムの物語は、逆張りの連続だった。

「10人に1人が欲しいもの」を信じる勇気。
M&Aで文具の外へ飛び出す大胆さ。
顧客と直接つながる仕組み、環境を強みに変える姿勢。

そのすべてが、縮小市場で光を放ってきた。

だが問われるのは、これからだ。
──あなたの会社は、多数派ではなく「1人」の声から未来をつくれるだろうか?