遺産は未来の武器──Onitsuka Tiger、蘇った虎の物語

Onitsuka Tiger
ナイキとアディダスが支配するスニーカー戦争。
巨大資本が機能性と大量生産を武器に、“足を守る道具”をグローバル市場にばらまいていた。
その一方で、人々は密かに疲れていた。
どの街角でも同じ靴。どの広告でも同じストーリー。
「もっと個性がほしい」──そんな時代に虎は甦った。
最初の転機は、2002年の“復刻”だった
ASICSは2002年、Onitsuka Tigerを独立ブランドとして再起動。
Mexico 66──1968年メキシコ五輪で着用された伝説の一足を、現代に甦らせ、ライフスタイルブランドとして市場に投下した。
ちょうど世界はレトロ回帰とY2Kカルチャーの渦中。
「懐かしいのに新しい」。
Tigerはその空気をとらえ、若者に再発見されたのだ。
Nikeが「未来」を売るなら、Tigerは「記憶」を売った。
だが、復刻だけでは終わらない。次の一手は“日本製”だった
2025年、ASICSは兵庫に「Onitsuka Tiger Innovative Factory」を建設すると発表。
伝統の職人技と最新技術を融合させ、NIPPON MADEシリーズを強化した。
世界のスニーカーがベトナムや中国で大量生産される中、Tigerは“日本製”という逆張りを選んだ。
一足ずつに込められる技術。
量ではなく、品質と誇り。
大量生産に飽いた時代に、「手仕事の靴」が世界のプレミア市場で光を放った。
次に狙ったのは、“文化”そのものだった
Tigerはコラボで牙を研いだ。
アート、音楽、ファッション──。
2024年のマルジェラ風コラボはSNSを席巻し、スニーカーを「履くアート」に変えた。
Nikeがバスケカルチャーを背負ったように、Tigerはファッションとアートを背負った。
履くことで、自分が“文化の一部”になる感覚。
〈顧客の声〉
「これは靴ではなく、私のアイデンティティだ」
その文化を体感できる“場”をつくり始める
2025年、ロンドン・コベントガーデンに旗艦店を開業。
1500㎡規模、そこは靴を買う場所ではなく“体験”の舞台だった。
欧州・アジアを中心に、インバウンド需要は2倍。
海外売上比率は70%を超え、観光客が列をなす。
オンラインで買える時代に、あえてリアルな場に投資する。
そこには「モノではなく記憶を売る」という哲学があった。
そして、虎はさらに未来を見据える
ASICSは中期計画でデジタルとサステナを統合。
生成AIで新領域を探り、環境対応素材を導入。
同時に2027年、北米再参入を発表。
次の戦場は、ナイキとアディダスの本拠地だ。
だが虎は正面からは戦わない。
大量生産と広告投資のゲームではなく、ヘリテージと物語で勝負する。
この戦略が示すものとは?
一度は歴史に埋もれたブランドが、大量生産疲れの時代に再び刺さった。
ヘリテージ × 職人技 × 文化体験──。
それはナイキやアディダスが持たない武器だった。
学びの一文:「遺産は、磨き直せば未来の武器になる」。
あなたの組織にも、眠ったままの“虎”がいないだろうか?
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