命令から思考デザインへのパラダイム・シフト

2025-05-30

AIに“じれったさ”を感じたことはないだろうか?

AIに指示を出したのに、思った通りの出力が得られなかった── そんな経験を持つ人も多いはずだ。

たとえば、「この文章を要約して」と依頼してみる。 返ってくるのは、誰にでもわかるような表面的な要約。 本来求めていたのは、「何がこの文章の核心なのか」というポイントの提示だったのに、それが見えてこない。

あるいは、「この内容をブログにして」と伝えても、汎用的な文体で、無難な構成で、それっぽく返ってくる。 しかし、こちらが意図していた焦点やニュアンスは、どこかに霧散している。

──こんな“じれったさ”を、君も感じたことがあるのではないだろうか?


曖昧なプロンプトが、曖昧な出力を生む

この“ズレ”の原因は、AIの能力が低いからではない。 問題は、人間側が与えている「指示そのものが曖昧だ」という点にある。

自然言語は、思っている以上にあいまいだ。 文脈に依存し、語の意味はぶれやすく、書き手の意図はほとんど構造化されていない。

AIは、この曖昧な情報をもとに、確率的に“もっともらしい”応答を返しているにすぎない。 つまり、「伝わらない」のではなく── 「伝えていない」のだ。


TAL:思考を構文化するというアプローチ

この問題に対して、まったく異なる角度からアプローチする方法がある。 それが「TAL(Tree-structured Assembly Language)」だ。

TALは、単なるプロンプトではない。 思考の構造そのものを明示的に、階層的に、そして構文化された形式で記述する“プロンプト設計言語”である。

従来の自然言語による“指示”とは異なり、TALは

  • 目的(goal)
  • 思考軸(z_axis)
  • 情緒的動機(ghost_axis)
  • 対立概念や意味軸(vector_axis) などを、明示的な構文で渡すことができる。

実例:TAL構文の一片

たとえば、「この文章を小学生でもわかるようにやさしく書き直して」と依頼する場面を考えてみよう。 TALでは、これを以下のように構文化できる。

{
  "original_prompt": "この文章を小学生向けに直したい",
  "goal": "小学5年生でも理解できるようにする",
  "z_axis": {
    "Structure": ["段落構成", "語彙選定", "比喩の使用"],
    "Contextual": ["読者は小学生"]
  },
  "ghost_axis": {
    "values": ["わかりやすくて楽しい文章にしたい"]
  },
  "note": "情報ではなく理解を重視する構成を意識すること"
}

 

この構文に含まれているのは、単なる“指示”ではない。 思考そのものの設計図だ。 AIはこの構文を受け取ることで、曖昧な命令ではなく、具体的な思考プロセスを実行可能な形式で受け取ることになる。


TALは「命令」ではなく「思考デザイン」である

TALの本質は、「命令の高度化」ではない。 命令というレイヤーそのものを放棄し、 AIに対して“構造的思考”を設計として渡すという転換にある。

このアプローチの利点は明確だ。

  • 曖昧な表現を構造的に排除できる
  • AIの“思考の起点”を、明示的にこちらから指定できる
  • その結果、直線的な応答ではなく、文脈に深く根ざした応答が返ってくる

TALは、AIをただ“使う”ものから、 “共に思考する”相手へと変える技術的構文だ。


まとめ:AIが「考えられなかった」のではない。

「考えさせなかった」のだ。

AIは、構造を与えられたときにこそ、本来のポテンシャルを発揮する。

「TAL」は、その構造を与えるための“思考OS”のようなものだ。

TALは、ブログ生成・システム設計・創作活動・思考の整理など、 応答の“意味の質”が求められるあらゆる場面で活用できる。

もしあなたが、AIにもう一歩深い応答を引き出したいと感じたことがあるなら、 TALは、あなたが踏み出すべき第一歩かもしれない。


🔗 TAL関連リンク


🔜 次回予告

「LLMがわたあめが溶けるように理解する」では、なぜTALがJSONという形式で書かれているのか? そして、なぜ“z_axis”や“ghost_axis”といった奇妙な軸名が存在するのか?

その背景には、「AIにとっての“母語”とはなにか?」という問いがある。 人間の言葉ではなく、構造と意味の撓動空間こそが、LLMの本当の理解の場なのだ。

次回はその思想設計の根底に迫っていく。